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論文紹介LUCUBRATIONS

ヘルスケアのキーはビタミンD!?

Vitamin D is a key for the health care !?
Mitsuoka Clinic Medical Corporation for the Practice of Cardiac and Internal Diseases
Takao Mitsuoka, M.D.,Ph.D.
3-14-3, Ozora-Cho, Obihiro, Hokkaido, 080-0838
(tel. 0155-48-9111)
更年期と加齢のヘルスケア14(1):28-35, 2015.

概要

ビタミンD(以下VDと略す)の作用は、腸からカルシウムの吸収を高める、骨の新陳代謝を活性化する、などの骨作用が広く知られていたが、最近VDに関する研究が進み、広範な骨外作用も明らかにされつつある。

日光紫外線にあたることでVDは体内でコレステロールから生合成されるが、近年のオゾン層破壊による紫外線暴露量の増加は、皮膚ガン増加につながっており、日光浴は積極的に勧められない。

VDは脂溶性ビタミンのために、摂り過ぎは過剰症につながる可能性がある。このため25-OH-D3の血中濃度を測定することが必要である。最適な健康を維持するための至適濃度は40〜60ng/mlがよいとされている。100ng/mlまでは過剰症はなく、VDの1日摂取量は1000〜2000IUは安全と考えられている。

VDの核内受容体は、脳、心臓、皮膚、生殖腺、前立腺、乳房などを含むあらゆる臓器の細胞に存在し、その臓器においてVDは様々な働きを担っている。その意味でVDは今やステロイドホルモン(セコステロイド)の仲間と考えられるようになってきた。 

VDの骨外作用に関する臨床的な報告も多くあり、その中からガン、自己免疫疾患、転倒、神経筋機能、高血圧、インフルエンザ、認知症、うつ病などに関する最近の論文を紹介したい。

キーワード
ビタミンD、カルシジオール-25-ヒドロキシビタミンD(25-OH-D3)、ビタミンD核内受容体、ステロイドホルモンの仲間(セコステロイド)、ビタミンDの骨外作用

RTD参加者の職業と参加理由

本ラウンドテーブルディスカッション(以下RTDと略す)中は、参加者の了解を得て、テープに録音し、執筆のための参考とした。

本RTDには6人が参加された。参加者の仕事と本RTDに参加された理由をイニシャルで紹介させてもらった。御本人の意図と異なる個所があればお許し下さい。

  • TMさん(健康食品会社員):当社で発売しているサプリメントの中に、ビタミンD(以下VDと略す)も入れている。VDに関してはアメリカでは、免疫も含めて様々な効果があると言われている。その効果について勉強したい。
  • CSさん(鍼灸師):冬場になると患者さんが増える。うつ傾向が出てくる患者さんも多い。また、高齢になると関節の問題が出てくる。VDをどういう時に勧めたらよいのか知りたい。
  • KTさん(薬剤師):すぐそばに整形外科の医師がいるが、高齢者にカルシウム(以下Caと略す)やVDを投与されている。その効果を知りたい。
  • SFさん(助産師):妊産婦や乳幼児にもVDが必要だと言われていたが、再確認をしたい。
  • OKさん(薬剤師):以前、整形外科病棟を回っていた時は、VDを重視していなかった。最近、糖尿病の病棟に行くと、VDが話題になる。その辺を知りたい。
  • HBさん(歯科医):リン酸カルシウムは歯の構成成分で、それを臓器として扱っているので関心がある。この領域の基礎研究者でビタミンD3の構造決定をされた須田立雄先生は医科歯科大学時代の恩師でもあるため、Caとそれを調節するビタミンD3にも興味がある。

はじめに

ビタミンD(以下VDと略す)は、腸からのカルシウム(以下Caと略す)吸収を高める、骨の新陳代謝を活性化する、などの骨作用が広く知られていたが、2000年頃からVDに関する発表論文数が急増し、VDの広範な骨外作用が明らかにされつつある。

本稿では、VDの骨外作用に関する最近の臨床的な論文を紹介したい。

ビタミンDの骨外作用

VDの細胞内受容体は、骨、小腸、腎などのCa代謝に関連する臓器のみではなく、脳、心筋、大腸、皮膚、生殖腺、前立腺、乳線、単球、T細胞、B細胞などを含む、幅広い臓器の細胞に存在することが知られている。

VDは細胞内の核内受容体に結合し、結合によってできた複合体が種々の標的遺伝子の転写を活性化し、その臓器において様々な働きを担うことが明らかにされてきた。例えば、レギュラトリー(制御性)T細胞は、キラーT細胞が正常の細胞を過剰に攻撃しないように、キラーT細胞の働きを抑制し、免疫反応を終了に導く、などの役割がある。VDはレギュラトリーT細胞を誘導し、この働きを促進することが知られ、多発性硬化症や1型糖尿病などの自己免疫疾患の抑制に働く可能性がある。また、ナチュラルキラー細胞は体の中を常にパトロールしてウイルスに感染した細胞を攻撃し、マクロファージは体に侵入した異物を取り込んで処理するが、VDはこれらの細胞を活性化し、ウイルスや細菌による感染を抑制することが知られている。VDには細胞増殖抑制作用があることも知られ、大腸ガンや前立腺ガンなどのガン発病抑制に働く可能性もある。

このようなVDの多くの組織や細胞における骨外作用が、VDの働きの大きな部分を占めることが知られるようになってきた。その意味でVDは今やビタミンというよりステロイドホルモンの仲間(セコステロイド)と考えられている。

ビタミンDの合成経路

図1にVDの合成経路を示した。VDはコレステロールから作られ、7-デヒドロコレステロールに変わり、これが皮膚で紫外線に曝露されるとVD3(コレカルシフェロール)に変わる。一方、食事で摂ると、動物性の食材にはVD3が多く、植物性の食材にはVD2(エルゴカルシフェロール)が多い。VD3とVD2が肝臓で25-OH-D3(カルシジオール-25-ヒドロキシビタミンD)に変わり、肝細胞に貯えられる。この25-OH-D3は必要に応じてαグロブリンと結合して肝臓から放出され、腎臓で活性型VD(カルシトリオール、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、1,25-(OH)2-D3)に変わる。この活性型VDは、VD結合タンパクと結びついて様々な臓器に運ばれ、細胞核内に主に存在するVD受容体に結合することで、骨作用や骨外作用の種々の働きをもたらす。

もしVDが不足すれば、活性型VDが十分に作られなくなり、骨作用だけではなく、組織や細胞の骨外作用の働きも損なわれることになる。

図1.ビタミンD合成経路

図1

ビタミンDの供給源

本来ビタミンは体内で作ることができないものであるが、VDは日光紫外線にあたることで、皮膚でコレステロールから生合成される。その意味ではビタミンとはいえない。

VDの供給源は2つあり、一つは食事、もう一つは日光紫外線浴による皮下での生合成である。食事では、きのこ類や脂の多い魚に多く含まれるが、せいぜい摂取しても1日150IU(国際単位)ほどである。1日の必要量は2350IUほどであるので、大部分は日光浴によって皮下で生合成し、供給することになる。十分な量のVDを日光浴で得るためには、10時から15時の間に、少なくとも週2回、5分から30分、顔、手足、背中への日光浴が必要である。もちろん日焼け止めを使用しないことが前提である1)

皮膚の老化の80パーセントは、日光紫外線による老化であることが知られている。シミ、シワなどの皮膚の老化、また老化の果てにある皮膚ガンを予防するためには、紫外線暴露をなるべく避けることが必要でもある。皮膚の老化と皮下でのVD生合成に関わる紫外線は主にUVBである。したがって、日焼け止めを使用すると、皮膚の老化は緩やかになるが、皮下でのVD生合成は使用しない時の5パーセント以下になる。

もう一つの問題は、地球の大気圏のオゾン層が年々減少していることがあげられる。オゾン層の減少によって地表に注ぐ紫外線量は多くなり、皮膚ガンの増加につながっている。オーストラリアの幼稚園では、園児が屋外に出る時は、帽子をかぶり、長そでを着て、なるだけ太陽光に直接触れないような指導がなされている。

また、緯度によっても紫外線量はことなる。例えば、鹿児島は札幌の2倍の紫外線量がある。緯度が高くなれが紫外線量も減ることになるし、北国ほどVD不足に陥るリスクが高い

ビタミンD至適濃度

VDは脂溶性ビタミンなので、脂肪組織や肝臓に蓄積される。過剰摂取にならないように注意する必要がある。

このために25-OH-D3の血中濃度を測定することが推奨される。至適濃度は25-OH-D3で40〜60ng/mlである。25-OH-D3血中濃度は、食事と日光浴で得られたVDの合計量をみる良い指標である。しかし、血中以外に貯蔵されているVDの総量を示してはいない。脂肪量と25-OH-D3血中濃度は反比例することが知られているので、肥満者でのVD不足の判定には注意を要する。25-OH-D3の半減期は15日である。欧米では25-OH-D3血中濃度の単位にnmol/Lを用いることも多いが、1 ng/mlは2.5 nmol/Lに相当する。

25-OH-D3の血中濃度が100 ng/mlまでは過剰の問題はないとされ、1日のVDサプリメント摂取量は2000IUまでは安全であると言われている。

25-OH-D3血中濃度が200 ng/ml以下では中毒症状は出ない、また、VDの摂取量としては30,000IU以下なら中毒症状はないことが報告されている2)

一方、活性型VD(カルシトリオール、1,25-(OH)2-D3)の血中濃度は、VDの良い指標にはならない。半減期が15時間と短いこと、副甲状腺ホルモン、Ca、リン酸によって、ある範囲の濃度に厳密にコントロールされているからである。

当院(帯広)で測定したビタミンD(25-OH-D3)血中濃度

札幌、帯広は北緯43度にある北国である。冬季は特に紫外線不足になる。

図2には、アンチエイジングドックなどの際に当院で測定した25-OH-D3血中濃度を示す。測定した季節は、特に限定しておらず、夏も冬も含まれている。男性は10人中9人(90%)で、女性は19人中17人(89%)で至適濃度の40〜60ng/ml以下であった。

図2.当院(帯広)におけるビタミンD(25-OH-D3)濃度

図2

アンチエイジングドックなどで測定したビタミンD濃度は、男性は10人中9人(90%)で、女性は19人中17人(89%)で至適濃度の40〜60ng/ml以下であった。

図3は、25-OH-D3が40ng/ml以下で、VDサプリメント摂取を希望した人に、1日1000〜2000IUを摂取してもらい、3〜6ヶ月毎に血中濃度を測定し、その推移をみたものである。サプリメント摂取にて至適濃度をほぼ保つことができている。

図3.ビタミンD補充療法後の25-OH-D3血中濃度の推移

図3

ビタミンDが至適濃度以下で、ビタミンDサプリメント摂取希望者に、1日1000〜2000IUを摂取してもらい、3〜6ヶ月毎に血中濃度を測定した。サプリ摂取にて至適濃度をほぼ保つことができている。

以上のデータから、北国ではVD不足は深刻であること、しかしVDサプリメント1000〜2000IU/日摂取により至適濃度を維持することができることがわかる。

ビタミンDの骨外作用に関する臨床報告

以下にVDの骨外作用に関するいくつかの臨床論文を紹介する。ここにはポジティブ・データを示した論文を取り上げたが、これらとは結論が異なるネガティブ・データの論文もある。

1.ビタミンDとすべての癌

北緯41度にある米国ネブラスカ州の住民を対象にランダム化比較試験が行われた。対象は55歳以上の閉経後女性1179人で、これらをプラセボ群の228人、Caのみ摂取群の445人、Ca+VD3摂取群の446人の3群に分けた。Caは1400-1500mg/日、VD3は1100IU/日を摂取した。Ca+VD3摂取群では、4年後のすべての癌の発病率は、プラセボ群に比ベて60パーセント少なかった。25-OH-D3血中濃度は、プラセボ群では 72.1nmol/L(28.8ng/ml)から1年後 71.1 nmol/L (28.4 ng/ml) へと変わらず。これに対して、Ca+VD3摂取群は、前 71.8 nmol/L (28.7 ng/ml)から1年後 96.0 nmol/L (38.4 ng/ml) へと増加した。Ca+VD3の摂取状態を改善することで、閉経後女性のすべての癌の発病リスクを減少できる、と結論づけている3)

2.ビタミンDと乳癌リスク

2002年から2005年にかけ、ドイツでケース・コントロール研究が行われた。対象は閉経後乳がん患者1394人と、生年をマッチさせたコントロール1365人で、年齢は50から70歳であった。閉経後の乳がん発病リスクと25-OH-D3血中濃度は逆相関した。25-OH-D3濃度が 75 nmol/L (30ng/ml) 以上では、発病リスクは69パーセントも少なかった。この結果からVD摂取には閉経後乳がん発病の予防効果があることが示唆される、と結論づけている4)

3.ビタミンDと結腸直腸癌リスク

米国の Nurses’Health Study の一環として階層化ケース・コントロール研究が行われた。生年および25-OH-D3採血月を一致させた対象群と比較し、25-OH-D3測定後11年間の結腸直腸癌の発病をみた。46から78歳までの女性193人が結腸直腸癌に罹患した。25-OH-D3濃度と結腸直腸癌発病リスクは直線的に逆相関を示した。5分位階層で25-OH-D3濃度が最も高い層(中央値で40 ng/ml)の発病オッズ比は0.53であった。この結果から、高齢女性(60歳以上)においてVD濃度が高ければ、遠位部の結腸直腸癌発病リスクは低減する、としている5)

4.ビタミンDと前立腺癌発病リスク

フィンランドで階層化ケース・コントロール研究が行われた。Helsinki Heart Studyに登録した 19000人の中年男性を13年間フォローアップした。経過中149人が前立腺癌を発病した。登録時に測定したVD濃度で4階層に分けた。VD濃度と前立腺癌発病リスクは逆相関を示した。VDが最も低い層は、最も高い層に比べ、前立腺癌発病リスクはオッズ比で1.7あった。登録時にVD濃度が低かった52歳以下の男性の発病リスクは、オッズ比で3.1と最も高かった。

この結果から、VD濃度が低いと前立腺癌発病リスクは高くなり、特にアンドロポーズ(andropause、男性更年期)前ではさらに高くなる、と結論づけている6)

5.ビタミンDと1型糖尿病発病リスク

1型糖尿病の病因の一つに、自己免疫によって膵臓のベータ細胞が破壊されることが考えられている。1型糖尿病の動物実験モデルでは、1,25-(OH)2-D3で1型糖尿病が予防されることが示されている。

このようなデータをもとに、フィンランド北部で1966年に生まれた12058人の新生児を対象にコホート研究が行われた。生後満1歳でVD摂取量とくる病の疑いについて調べた。その後、1997年まで約30年間、1型糖尿病の発病についてフォローアップした。分析できた10366人のうち81人が1型糖尿病を発病した。乳児期にVDサプリメントを摂取した人の1型糖尿病の発病は、摂取しなかった人に比べ、88パーセントも低かった。VDを推奨量の2000IU/日を摂っていた人は、それ以下の量を摂っていた人に比べ、発病は78パーセントも少なかった。くる病を疑われた人の1型糖尿病の発病リスクは、疑いがなかった人に比べ、3倍も高かった。

このことから、VDサプリメント摂取は1型糖尿病の発病リスクを減少する、としている7)

フィンランドでVDサプリメントの推奨量は、1956年4000-5000IUであったのが、64年には2000IU、75年には1000IU、92年には400IUと年々減少し、一方1980年代になるとくる病の発病率は増加してきている。日本でも、乳幼児のVD欠乏性くる病は急増していることが報告されている。

6.ビタミンDと転倒

筋肉にもVD受容体がある。横断的研究でVD血中濃度がより高い高齢者は、筋力が強く、転倒の回数が少ないことが示されている。このようなことから、Ca+VDサプリメント摂取が筋骨格機能を改善して転倒を少なくするかを調べた研究が行われた。

老人ホームに入居中の高齢女性(69-99歳)122人を対象に、二重盲検無作為対照試験が行われた。対象を、Caのみ摂取群60人と、Ca+VD摂取群62人に分け、12週間観察した。Caは1200 mg/日、VDは800IU/日を摂取した。Caのみ摂取群に比べ、Ca+VD摂取群では、筋骨格機能は有意に改善し、転倒リスクは49パーセント減少した。25-OH-D3血中濃度は 前12ng/mlが、Ca+VD摂取群では71パーセント増加した。

転倒リスク軽減は、VDによる筋骨格機能の改善によってもたらされたと結論づけている8)

7.ビタミンDと神経筋機能

65歳以上の男女の高齢者1234人を対象に、神経筋機能とVDとの関係について3年間にわたるフォローアップ研究がオランダで行われた。神経筋機能を、歩行時間(3メートル歩行しターンしてもどる)、立ち上がり時間(椅子立ち上がり5回)、片足立ち時間(10秒以上)によって評価した。高齢男女において、25-OH-D3血中濃度が20ng/ml以下では、神経筋機能がより低下しており、その後のフォローアップ中、その機能はさらに著しく低下した。

成人人口のほぼ50パーセントが25-OH-D3濃度は20ng/ml以下であり、この集団に対する対策が必要であると結論づけている9)

8.ビタミンDと高血圧

高齢女性(年齢74±1歳)148人を対象に二重盲検無作為対照試験がドイツで行われた。対象を、Caのみの摂取群とCa +VD3摂取群の2群に分け、8週間摂取後に、血圧に対する効果を調べた。Caは1200mg/日、VD3 は800IU/日を摂取した。収縮期血圧は、Caのみの摂取群で5.7mmHg低下したのに対し、Ca +VD3摂取群では13.1mmHg低下した。

CaとVD3の不足は、高齢女性において高血圧症の病因の一つに、また、高血圧症の増悪や心血管疾患の発病に、関係している可能性がある、と結論づけている10)

9.ビタミンDとインフルエンザ

2008年12月から2009年3月にかけての冬季に、小中学生(年齢6−15歳、平均体重35.5kg)334人を対象に、二重盲検無作為対照試験が日本で行われた。対象を、プラセボ群167人と、VD3 1200IU/日摂取群167人の2群に分け、プラセボ群を1.0とした時、インフルエンザAに罹患する相対リスクは、VD3摂取群で0.58へと減少した。

冬季間にVD3のサプリメント摂取は、インフルエンザAの罹患率を減少する可能性がある、としている11)

10.ビタミンDと認知症

318人の高齢者(平均年齢73.5歳、男性87人、女性231人)を対象に、米国で横断研究がなされた。25-OH-D3血中濃度は、14.5%で欠乏(10ng/ml以下)、44.3%で不足(10〜20ng/ml)であった。76人(23.9%)が認知症、内41人がアルツハイマー病と診断された。認知症では平均25-OH-D3濃度が低く(16.8 vs 20.0ng/ml)、特に20ng/ml以下ではより高率に認知症が認められた(30.5% vs 14.5%)。MRI検査では、VD欠乏で脳白質の損傷を示す白質高信号域の容積(4.9 vs 2.9ng/ml)と程度の増強(3.0 vs 2.2)、および大血管の梗塞が多く認められた(10.1% vs 6.9%)。VD不足で、認知症になるリスクが2.3倍、アルツハイマー病のリスクが2.5倍、脳卒中リスクが2.0倍と増加した。

VDの欠乏あるいは不足は、すべての型の認知症、アルツハイマー病、脳卒中、MRI上の脳血管障害の指標と関係していた。この結果よりVDは脳神経血管に対して保護的作用がある可能性が示唆された、としている12)

11.ビタミンDとうつ病

従来からうつ病患者ではVD濃度が低いことが報告されている。本論文13)では冬期に紫外線強度が減弱し、皮膚でのVD生成が少なくなると、うつ病が発病すると報告。特に、高緯度に住む浅黒い肌の人は発病のリスクが高くなるとしている。VDは、脳内のセロトニンやドーパミンの合成に関与し、またこれらの脳内神経伝達物質の低下はうつ病と関連している。したがって、VDと冬期間に発症するうつ病には関連があると示唆している。

終わりに

以上述べたように、VDはCaや骨のホメオスタシスに役立っている他に、多くの細胞の機能を潜在的に統制している可能性が示唆されている。しかし、VD不足とガン、感染症、自己免疫疾患、高血圧症、認知症、うつ病などとの因果関係は、未だ確立されたものではない。

2005年から2006年にかけて行われた米国健康栄養調査(NHANES)では、実に20歳以上の成人の41.6パーセントが25-OH-VD血中濃度が20ng/ml以下であり、このレベルのVD不足は、高齢者の骨粗鬆症の発病と転倒ならびに骨折のリスク増加につながっている可能性がある、と報告している14)

VD血中濃度を測定し、不足ないし欠乏レベルの人には、転倒と骨折のリスクを軽減するために、一日1000IUのVDサプリメント摂取が勧められている15)。VDの補充は、未だ結論が出ていないVDの骨外作用にも良い結果をもたらす可能性がある。

今後ともVD研究の動向に注視する必要がある。

フリーディスカッション

(参加者による質問はQ、座長による答えはAで示しています。この部分は意図的に口語体で書きました)

Q:VDを摂ってどのくらいで濃度は上がるのですか?

A:サプリを摂って8週間ほどかかるようです。VDの測定は、保険がきかず、自費で7,000円ほどかかります。負担を考えると、頻回には測れないので、半年毎にチェックしています。40から60ng/mlが目安で、なるべく60近くでコントロールしています。一般に100IUのサプリを摂ると、1ng/ml 濃度が上がると言われています。

Q:妊婦にVDを摂った方が良いという話は、聞いたことないのですが。

A:母体のVDが少ないと、胎盤を通過するVDも少なくなり、胎児もVD不足になります。このことが胎児の健康、特に骨の発育に関係します。日本でも本文で述べたように、乳幼児のVD欠乏性くる病が増えています。VDは母乳を通じても赤ちゃんに与えられますので、母親が十分なVDを摂ることは大事なことです。

Q:これからインフルエンザの時期ですが、これからでもVDを補給しても間に合いますか?

A:十分間に合います。2か月くらいでVD濃度は上がってきます。冬には太陽光の紫外線量も少なくなってくるので、そういう意味では冬だけVDを摂るというのも一つの考えだと思います。

文献

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