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第6問:「息切れ」で初めに行う診察と処置は何か

救急10問10答 - 最初の1時間ですること、考えること
JIM 8(7):566-570, 1998

CASE1夜間呼吸困難で発症した急性左心不全の1例

患者:58歳、男性。それまでは健康に関する問題を感じたことはなかった。朝方4時ころ急に呼吸困難を覚えて目覚め、2時間ほど起座位をとっていたら軽快した。日中軽作業をしたが、特に息切れは感じなかった。その夜0時ころ、再び呼吸困難で目覚め、朝方まで起座位でがまんしていたら軽快した。しかし、その日は坂道をのぼるとき、動悸、息切れを感じた。その夜、前夜と同様の呼吸困難を呈し、朝受診した。第4肋間胸骨左縁に thrill を伴う Levine5度の逆流性収縮期雑音を、背部にて湿性ラ音(水泡音、coarse crackle)を聴取した。胸部X線では心拡大、肺うっ血像、胸水を認めた。急性左心不全と診断、緊急入院となる。心エコーにて腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症と診断された。

CASE2徐々に進行する息切れを呈した症例

患者:67歳、男性。数日前よりかぜぎみであったが、早朝、喘鳴を伴う呼吸困難が出現したために外来受診。wheezing を認め、血液ガスでは PO2 74 Torr、PCO2 48 Torr。胸部X線では横隔膜の低位、肺過膨張像を認めた。病歴では、20歳ころより喫煙。15年ほど前から慢性的に咳、痰を認め、10年前から労作時の息切れを感じるようになった 。この半年は労作時に喘鳴を伴うようになり、休息してもなかなか息切れは軽快しなくなったという。慢性閉塞性肺疾患の急性増悪と診断した。後に、スパイログラムにて混合型肺機能障害を確認した。

Question & Answer
Q:stridor と wheeze はともに日本語で「喘鳴」と訳されるが、違いは?
A:stridor は特に吸気時に起こる喘息に、wheeze は特に呼気時に起こる喘鳴に用いられる。肺気腫や気管支喘息時の喘鳴は、wheeze という表現がより適当と思われる。
キーワード  息切れ、呼吸困難、喘息発作、血液ガス測定、パルスオキシメータ

最初の1時間ですること、考えること

「息切れ」と呼吸困難が同じことを意味するかは議論のあるところであるが(本郷 588 ページ、One More JIM を参照)、医学用語としては、「息切れ」(shortness of breath) と呼吸困難(dyspnea) はほぼ同義語として用いられており、本稿においても両者を同義として取り扱った。

呼吸困難の患者をみたとき

1)まずバイタルサインをチェック

意識状態、脈拍、呼吸、血圧、体温などのバイタルサインの異常をチェックする。意識の低下、血圧の低下、徐脈、ショック状態などを認めれば、静脈確保と酸素投与を行う(酸素投与開始量はJ1を参照)。救命処置ができる設備がなければ高次病院への搬送を手配する。

J1.呼吸困難時の酸素投与開始量をどのようにするか
状態 酸素投与開始量
急性呼吸不全 O2 4 l/分
慢性閉塞性肺疾患の急性憎悪 O2 1 l/分
肺疾患の既往のある人・高齢者 O2 1 l/分
高 CO2 血症(PCO2 > 50 Torr なら) O2 0.5 l/分

2)血液ガス測定

血液ガス測定を行い、低 O2 血症、高 CO2 血症、pH 異常などについて判断する。必要に応じて酸素を投与する(J1)。
血液ガス測定ができない施設では、パルスオキシメータによる経皮的動脈血酸素飽和度(SPO2)の測定が有用である(J2)。

J2 パルスオキシメータ
PO2SPO2
40Torr70%
50Torr80%
60Torr90%
100Torr98%

手指の爪で経皮的動脈血酸素飽和度(SPO2)を簡単に測定でき、装置も5cm四方の携帯型があり、価格も手頃である。日常診療にも役立つのでプライマリケア医でもぜひ備えておかれることをお勧めしたい。PO2 と SPO2 の関係はおおむね以下のようになっている。この関係は「40-50-60/70-80-90 rule」と呼ばれ、対応関係を推測するのに便利な方法である。

3)呼吸困難の起こり方、重症度の判断

(1)起こり方:発作性か、突発性か、急性か、あるいは慢性疾患の急性増悪かなどを判断し、原因疾患をしぼりこむ(発作性、突発性、急性の区別は実際の臨床の場では難しいことも多いが、ここでは便宜的に区別して図1に示した)。呼吸困難が強くて本人から十分に聴取できない場合には、付き添ってきた人からも聞く。

図1.呼吸困難の急患ー最初の1時間ですること、考えること

図1.呼吸困難の急患ー最初の1時間ですること、考えること

(2)重症度:重症か、比較的軽症か、について判断する。

喘鳴が強く、チアノーゼがあり、起座呼吸を認めれば、一見してかなり重症であることが推測される。しかし、呼吸不全の重症度を客観的に容易に判定するには、血液ガス測定が有用である(J3を参照)。

J3.血液ガス測定による重症度判定
 軽症中等症重症
PO2≧60 mmHg(空気呼吸下) <60 mmHg(空気呼吸下)<60 mmHg(酸素吸入下)
PCO2≦30〜50 mmHg 50〜55 mmHg>55 mmHg
pH≧7.307.25〜7.30<7.25

4) 胸部X線検査・採血・採尿・心電図検査

呼吸困難を訴える患者には胸部X線検査を必ず行う。情報量も多い。心・肺・胸膜などの異常の有無を判断する。
血算(貧血、感染症の判断)、検尿、血糖、肝機能、腎機能などをチェックする。通常は病歴、診察所見により検査項目を決定するが、急患の場合は早目に採血採尿を行い、検査結果を待つ間に病歴、診察を行う。
心疾患が考えられる場合には、心電図検査も行う。

発作性・突発性・急性あるいは重症の場合

手短に以下をチェックする。

1)随伴症状

  1. 胸痛(心筋梗塞、胸膜炎、心膜炎、肺炎、自然気胸、肺塞栓症、肺癌など)
  2. 発熱(肺炎、慢性肺疾患の感染増悪、肺結核など)
  3. 咳・痰(慢性気管支炎、肺気腫、肺結核、気管支喘息など)
  4. 血痰・喀血(肺結核、肺癌、気管支拡張症、慢性気管支炎など)

2)病歴

  1. 喘息、アンルギーの既往(気管支喘息)
  2. 慢性気管支炎、肺気腫などの肺疾患の既往(慢性肺疾患の急性増悪)
  3. 心疾患、心臓発作、狭心症などの既往、ジギタリスや利尿剤の使用(心疾患による肺水腫、うっ血性心不全)
  4. 刺激性ガスの吸引(刺激性ガスによる急性肺水腫)
  5. 気胸の既往(自然気胸)
  6. 血栓性静脈炎の有無(肺塞栓症)
  7. 糖尿病性アシドーシス、腎不全の既往(アシドーシス)

3)診察

  1. チアノーゼ(PO2 < 45 mmHg の低い低酸素血症)
  2. ばち状指(肺気腫、間質性肺炎、肺癌、先天性心疾患など)
  3. 頸静脈の怒張(うっ血性心不全)
  4. 胸郭(胸部X線検査でわかることは省略して診察):樽状胸(肺気腫)、片側の拡大(気胸、胸水)、捻髪音(fine crackle)(びまん性間質性肺炎)、水泡音(coarse crackle)(肺炎、肺水腫、慢性気管支炎、びまん性汎細気管支炎など)、笛音(wheeze)(気管支喘息)、摩擦音(胸膜炎)
  5. 心臓:心雑音(各種の心疾患)
  6. 腹部:肝腫大や腹水(慢性肺疾患による肺性心、うっ血性心不全、肝硬変)
  7. 下肢:浮腫(うっ血性心不全、血栓性静脈炎)、ふくらはぎの痛みや圧痛(血栓性静脈炎)

慢性あるいはそれほど重症でない場合

上記のほかに、以下のことをチェックする。

1)息切れと労作との関係

  1. 労作時(心疾患、慢性閉塞性肺疾患、肺結核、 間質性肺炎、貧血など)
  2. 安静時(自然気胸、肺水腫、肺塞栓症、肺炎、胸水貯留、不安・パニックによる過換気症候群など)

2)呼吸困難と体位との関係

  1. 起座呼吸(orthopnea、J4)(心不全、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪など)
  2. 偏側臥呼吸(trepopnea、J5)(一側の高度な胸水貯留、高度な気胸、一側無気肺)
J4 起座呼吸(orthopnea)

臥位では呼吸が苦しく起座位をとる。呼吸困難が強いときにみられる。心不全や気管支喘息の発作時、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪時などに認められる。心不全では、臥位になると静脈還流が増加し、肺うっ血が増強し換気量も減少するために、呼吸困難が強くなり起座位をとる。肺疾患の場合は、呼吸補助筋や横隔膜の活動が十分に行えるように起座位をとる。この場合、心不全のときと比べると前屈みの姿勢が強い傾向がある。

J5 偏側臥呼吸(trepopnea)

一側に大量の胸水貯留があるとき、患者は胸水貯留側を下に側臥位をとる。無意識のうちに呼吸困難を軽減すためである。高度な気胸、一側無気肺でも同様である。

3)呼吸困難と時間との関係

  1. ある季節に(気管支喘息)
  2. 発作性夜間呼吸困難(paroxysmal nocturnal dyspnea, J6)(心疾患による肺水腫)
J6 発作性夜間呼吸困難(paroxysmal nocturnal dyspnea)

夜寝入った後に、発作的に息切れを感じて目がさめる。患者は横になっておれず、座ったり、立ち上がって歩きまわる。空気の不足感から窓を開けたりする。喘鳴や咳を伴うこともある。この場合、心臓喘息(cardiac asthma)とも呼ばれる。通常、横になってから2~4時間で出現する。まれに一晩に数回起こることもある。日中は息切れを感じないこともある。この発作は、すでに存在する心疾患による肺うっ血が、夜間の静脈還流の増大でより増悪することで生じることが多い。

4)疾患を疑わせる病歴や症状の有無

糖尿病の既往あるいは家族歴、腎不全の症状、出血や貧血の既往、尿路疾患の症状、不安発作の既往など。

関連する症状などへの対応

喘息発作の鑑別診断

発作性に起こる呼吸困難を喘息と呼ぶ。喘息発作として重要なものは、気管支喘息と心臓喘息(心疾患によって起こる肺水腫)である。これらの鑑別については、要点を表1に示した。

 
表1.喘息発作の鑑別
心臓喘息気管支喘息
一般状態しばしばショック良好
喘鳴軽い著明
呼吸困難の型呼気・吸気ともに喘鳴、 発作性夜間呼吸困難、起座呼吸呼吸時の喘鳴、呼気の延長、起座呼吸
喀痰泡沫様血痰発作後粘稠痰
診察所見 湿性ラ音
(水泡音=coarse crackle)心雑音、浮腫
乾性ラ音(笛音=wheeze)
発作の時期夜間就寝後、目をさます夜間の場合は、就寝後まもなくとか早朝に多い、 季節の変わり目に多い
病歴高血圧症、虚血性心疾患、弁膜症などの既往 アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息発作などの既往、アレルギー疾患の家族歴
X線所見心拡大、肺うっ血像 慢性で肺気腫を伴えば
(1)透過度亢進
(2)横隔膜平低化
心電図頻脈、左室肥大所見、心房細動などの不整脈 頻脈、慢性で肺気腫を伴えば、肺性P・右軸偏位

努力呼吸と呼吸困難の違いは何か

努力呼吸(labored respiration)は、呼吸困難時にしばしば認められる他覚的な所見である。努力呼吸の状態を示す言葉として、

  1. 頻呼吸(tachypnea, rapid breathing):呼吸数の増加
  2. 過呼吸(呼吸克進)(hyperpnea):1回換気量の増加(神経症、過換気症候群)
  3. 多呼吸(polypnea):1回換気量も呼吸数も増加(過換気症候群、肺塞栓症)
  4. 過換気(換気充進)(hyperventilation):代謝性要求を上回る換気量の増大

などがあげられる。

呼吸困難は、自覚的に不快感や苦痛を伴った努力呼吸といえる。しかし、呼吸困難はその程度が軽ければ、本人以外は気づかない。程度が強くなれば、会話中や歩行時に息遣いが荒くなったり、肩で息をするなど、努力呼吸が他覚的に認められるようになる。一方、健康な人が運動後にみせる多呼吸(polypnea)は努力呼吸ではあるが、自覚的には苦痛を伴っておらず、呼吸困難とは呼ばない。このように、呼吸困難のすべてが努力呼吸ということでもなく、また、努力呼吸のすべてが呼吸困難ということでもない。

異常な呼吸状態を示す言葉

異常な呼吸状態を示す言葉として、Cheyne-Stokes 呼吸(心肺疾患、中枢神経疾患)、Biot 呼吸(髄膜炎)、Kussmaul 大呼吸(尿毒症、糖尿病)など が知られているが、一般に意識障害を伴うため、患者は呼吸に伴う苦痛を自覚しない。このため、本来の呼吸困難とは区別されるべきかもしれない。しかし、臨床的には呼吸困難という言葉をこのような場合にも使用している人もいる。

酸素投与のpitfall

呼吸困難の患者にとりあえず酸素を投与することは、多くの場合正しい処置である。しかし、時に酸素投与が呼吸抑制に働き、CO2 ナルコーシスをもたらし、病状の悪化につながることがある。慢性閉塞性肺疾患、肺疾患の既往のある人、高齢者などに酸素を投与する場合は特に注意が必要である。

各状態における酸素の投与開始量は J1 に示した。酸素投与開始後15~30分ごとに、血液ガスを測定し、PO2 が 60~80 Torr、SPO2 が 90% 以上になるように投与量を調整する。慢性閉塞性肺疾患患者では普段低酸素血症に慣れているので、PO2 は 50~60 Torr で十分である。高 CO2 血症をすでに示す患者では PCO2 が 60 Torr 以上にならないように、あるいは投与前より増悪しないように酸素投与量を調整していく。

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