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「老い対策」としてのアンチエイジング医療〜高齢者に対するホルモン補充療法を考える〜

Anti-aging medical treatment as "measures against aging"
- Considering hormone replacement therapy for the elderly-
満岡孝雄
満岡内科・循環器クリニック
アンチ・エイジング医学14(6):026(776)-034(774), 2018.

SUMMARY

Our clinic started implementing anti-aging medical treatment approximately 10 years ago. Patients who receive treatment long-term (approx.10years), undergo anti-aging check-ups annually, and are administered hormone replacement therapy and supplement nutrition therapy based on the results. Patients who undergo this anti-aging medical treatment are young and active, both mentally and physically, in comparison with populations the same age that are not receiving treatment. The Japan Geriatrics Society defines "elderly" as starting from 75 years of age. However, in order for the elderly to live positively, preventive medicine that supports their health and vigor is necessary. I am thinking that the core of this preventive medicine should be anti-aging medicine. Here I would like to think about anti-aging medical treatment as "measures against aging," especially hormone replacement therapy for the elderly.

キーワード
アンチエイジング医療、高齢者、ホルモン補充療法、テストステロン、エストロゲン、DHEA、プラセンタ

はじめに

当院では2008年11月にアンチエイジングドック(以下AAD)を開設した。約10年が経過したが、この間142名がAADを受けた。その結果をもとに、テストステロン(T)、エストロゲン(E)+/-プロゲステロン(P)、DHEAなどのホルモン補充療法、マルチビタミン・ミネラルをはじめとするサプリメント療法などを、アンチエイジング医療(以下AMT)として行ってきた。

長い人は10年ほどAMTを受けられている。そういう人たちを見ていると、AMTとは無縁であった人たちに比べ、より若く活動的である、との印象を持つ。AMTを受けていない周りの同世代の人たちも同様に感じており、どのようにして若さを保っているのかと問われることもあるという。

「75歳以上を高齢者」にとの提言

2017年、日本老年医学会は、「今まで65歳以上を高齢者と呼んでいたが、これからは75歳以上を高齢者としよう。それまでは元気で社会のために役立ってもらおう」という趣旨の提言をした1)。確かに、数十年前の65歳と現在の65歳を比較すると、より健康的で若いという印象がある。

当院が立地している地域は、帯広市内で高齢化がもっともすすんでおり、3人に1人が65歳以上である。診療中に「最近元気が無くなってきた」と時に高齢者が話す。それで気づいたのだが、他にもそんな患者がいるのではないかと考えた。いつもは診療の際に「お変わりありませんか?」と聞くが、それからは一言「元気ですか?」という言葉も付け加えるようにした。

「元気ですか?」と問われた時の患者さんの表情は様々である。困ったような顔をして「あまり元気ではない」と答える人は問題だ。「なぜ?」と聞くと「歳のせいかな」と多くは答える。この数年、高齢者が元気を出すためのAMTは何かを考えてきた。

健康増進ハッピーヘルスドック

AADを10年前に始めた頃は、安いコースでも約8万円、高いコースは約16万円であった。当初は新聞などのマスコミが取り上げてくれたおかげで、それなりの受診数があったが、その後は年々減少していった。

高額のAADを見直して、3年前に約5万円の「健康増進ハッピーヘルスドック(以下HHD)」のメニューを作った(表1)。元気がない高齢者、10年後も仕事をしたい高齢者、遊ぶ活力を維持したい高齢者、還暦や古希を迎えてさらにその先の喜寿や米寿を元気で迎えたい高齢者、などにお勧めしている。HHDの結果で5〜10年先も元気でいるために、今何をすべきかを提案する。

そのような高齢者の「元気のため」の基本となるAMTは、ホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)であり、サプリやタンパク質をとる栄養療法である。

本稿では、特にこれから70、80、90歳と高齢に向かう人たちの「老い対策」としてのHRTについて述べてみたい。

表1.健康増進ハッピーヘルスドックのメニュー
問診表
身長
血圧・脈拍
体組成計測
骨量測定(超音波法)
検尿(タンパク・糖・潜血・ケトン体)
検血白血球
赤血球
血色素(ヘモグロビン)
ヘマトクリット
血小板
網状赤血球
白血球数
糖代謝検査血糖(空腹時)
HbA1c
インスリン
グルコアルブミン
HOMA-R
脂質検査総コレステロール
HDコレステロール
LDLコレステロール
中性脂肪
遊離脂肪酸(FFA)
肝機能検査総蛋白(TP)
A/G
ALB
蛋白分画
ALP
総ビリルビン
直接ビリルビン
関節ビリルビン
TTT
ChE
AST(GOT)
ALT(GPT)
γ-GTP
LDH
膵炎検査血清アミラーゼ
筋肉内酵素CPK
加齢マーカーDHEA-S
IGF-1
ストレスホルモン検査コルチゾール
DHEA-S/コルチゾール
性ホルモン検査エストラジオール(E2)
フリー・テストステロン(男性のみ)
テストステロン(女性のみ)
FSH
LH
プロラクチン
甲状腺ホルモン検査TSH
FT3
FT4
動脈硬化検査総ホモシステイン
高感度CRP
骨粗鬆症マーカー尿中NTx
腫瘍マーカーPSA(男性のみ)
抗p53抗体
CA125(女性のみ)
鉄代謝検査TIBCー比色
UIBCー比色
フェリチン
微量金属検査亜鉛
マグネシウム
カルシウム(Ca)
リン(P)
血中ビタミンD濃度25-OH-VD
自己免疫疾患検査抗核抗体
関節リウマチ検査RAHA
胃ピロリ菌感染検査H. Pylori 抗体 IgG

女性に対するホルモン補充療法

閉経後に女性の老化は始まっていく。更年期障害による症状を訴える人は、約3分の1であるが、むしろその人たちはエストロゲン(E)+/-プロゲステロン補充療法(以下HRT)を導入することで、いかにHRTが老化を先送りし、女性の元気を作りだしているかを実感する。

2002年に、米国のWHI研究報告2)が出され、世界中にHRTに対するネガティブな印象が走った。その後の10年間、WHI研究が導き出した結論に疑問が投げかけられ、WHIの研究者はさらに詳細な分析結果を公表し、新たな情報も加わった。しかしこの間、欧州におけるHRTの使用頻度は、20%前後から10以下に落ち込んでしまった3)

本のHRT使用頻度は2%ほどであったが、WHI報告後の調査がないためわからないが、たぶん変わらないか減少かと思われる。

2017年、日本産婦人科学会・日本女性医学学会が「HRTのガイドライン」を公表した4)。日本においてもWHI報告をめぐる議論に終止符をうち、安全なHRTの方法を示し、新たなスタートを切ったと言える。HRTによる乳癌や子宮内膜癌のリスクは小さい、あるいはリスクを増加させないと記している。また「HRTはいつまで継続可能か?」との問いには、「HRTの継続を制限する一律の年齢や投与期間はない」と答えている。この考え方は、国際的な考え方と一致している5)

保険診療で受けられるHRTは60歳くらいまでと思われるが、都道府県によって多少考え方は違うようである。当院でも60を過ぎてHRTを自費診療で行っている人もいる。HRTのコストは自費で続けたとしても月に約15,000円である。

女性に対するテストステロン補充療法

HRTだけでは元気がでない女性に対して、一部ではテストステロン補充療法(TRT)が試みられている。女性に対するのTRTの方法については、まだ一定の決まった方法は提唱されていない。

森本(産婦人科医)は、更年期障害のためにHRTを行っても、性的活力の減退、健康感の減少、を訴え続ける女性6名に対して、グローミン軟膏(グローミン 男性通常量 2cm=3mg/日)を外陰部に0.3mg/日(手芸用ビーズ大)塗布することで、性欲の改善、膣の分泌物が増えて潤滑作用が改善、食欲の改善、生活の充実感の増加、などが認められたと報告している6)。また、多毛、変声、浮腫、クリトリスの肥大などの副作用は、生理的なレベルのこの量では認められないとしている。

熊本(泌尿器科医)は、エナルモンデポー125mgを2週に1回投与、症状改善に応じて投与量を半分、さらに1/3と少なくし、かつ投与間隔を伸ばし副作用が出ないように治療するとしている7)

また、関口(泌尿器科医)は、初回はエナルモンデポー125mgを投与、2回目は副作用をみながら62.25mgまたは125mgを投与。その後は原則的にグローミン軟膏に切り替え、1cmを週に2回陰部に塗布する、ことを勧めている。また副作用としては、体毛の増加、ニキビ、嗄声、クリトリス肥大であり、嗄声、およびクリトリス肥大は不可逆的になることもあるとしている8)

欧米では、早くから女性の男性ホルモン欠乏症候群に関心が向けられてきた。この症候群は、生きる意味の減退、持続する全身倦怠感、性機能の変化、すなわち性的意欲/興奮障害、などが認められ、HRTでも改善せず、フリーテストステロン(FT)がかなり低下している(FTが生殖年齢の女性の4分の1程度まで減少している)、などの女性に対してTRTを考慮するとしている9)

2016年の国際閉経学会(IMS)の勧告では、アンドロゲンは女性の性機能に影響する強いエビデンスが存在し、性欲や性的興奮の欠乏を感じる女性にとってTRTは治療として考慮されるべきである、ただ6ヶ月経過しても有意なメリットがなければ、治療を継続するべきではない、としている5)

図1には当院でAADを受けた女性の総テストステロン(TT)値を示している。0.3ng/ml以下は低いと考えられるが、多くの例がその範囲にある。最近のHHDでは、E2、FSH、LH、プロラクチン、TT、DHEA-S、IGF-1も同時に測定している。表2にその値を示すが、高齢になると、TTのみでなく、DHEA-Sも下がっているので、これでは元気が出ない人も出てくるかと思われる。必要であれば女性に対してもTRTを考慮すべきであると思っている。

図1.アンチエイジングドック受診者のそうテストステロン(TT)値(女性87例)

図1アンチエイジングドック受診者のそうテストステロン(TT)値
表2.ドック受診者(女性10例)のエストラジオール(E2)、FSH、LH、プロラクチン、TT、DHEA、IGF-1
 E2
(pg/mL)
FSH
(mIU/mL)
LH
(mIU/mL)
プロラクチン
(ng/ml)
TT
(ng/dL)
DHEA-S
(ng/mL)
IGF-1
(ng/mL)
40歳42.17.83.411.820.5↓1,108↓219
48歳67.65.36.511.226.6↓3,258142↓
49歳309.98.312.820.336.22,637124↓
54歳5以下↓57.1↑39.2↑11.411.2↓406↓147↓
67歳8.9↓66.1↑26.94.155.3935↓221
72歳5以下↓47.3↑20.051.0↑
(ドグマチール服用)
16.6↓599↓122↓
72歳7.5↓41.9↑17.230.7↑
(リーゼ服用)
33.3945↓130↓
72歳 14.1↓24.7↑13.56.553.81,823↓147↓
74歳5以下↓58.4↑ 18.37.826.9↓546↓56↓
84歳5以下↓76.3↑28.512.924.7↓181↓86↓
基準値 50~25020以下35以下
(2.0〜80)
25以下
(6.1〜30.5)
30〜60が最適2,500以上は欲しい150以上は欲しい

男性に対するテストステロン補充療法(TRT)

約10年前(2007年)に、日本で初めて「加齢男性性線機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き」が、日本泌尿器科学会と日本Men’s Health学会から共同出版され、男性更年期障害、ED(勃起不全)、心身症などに対する診療マニュアルが提唱された。それにより日本でも男性の更年期障害が認知されるようになった。

図40〜50代の男性に過重なストレスがかかった時、男性ホルモンが低下して女性と同じような男性更年期症状を呈する。ただ男性の場合は、自律神経症状よりもEDやうつ状態が前面に現れることが多

日本における男性ホルモン製剤は、欧米に比べると選択肢が少ない。利用できるのは、男性ホルモン軟膏のグローミン(大東製薬)と注射薬のエナルモンデポー(125mg、250mg)のみである。前者は1%の男性ホルモン軟膏であるが、保険適応はない。一方、エナルモンデポーは保険適応薬ではあるが、注射直後のFT値は40〜50pg/ml以上の非生理的濃度まで上昇し、2週間もすれば、元の値近くまで低下する。このため2週間に1度は注射を続けることになる。3か月ほどでTRTの効果がはっきりすると言われているが、長期に投与することにより、精子力の低下など精巣への抑制がかかることが考えられる。今から子供をもうけたいと考えている男性には、ある時点で男性ホルモン軟膏に切り替える必要がある。ただ欧米のように5%ないし10%の高濃度の男性ホルモン軟膏は日本にはないので、欧米から個人輸入せざるをえない。輸入した場合、原価でひと月当たり約15,000円から25,000円の費用がかかる。グローミンは原価で約4,000円、エナルモンデポー1アンプル(250mg)は原価で約2,000円である。男性の元気のための治療を考える時、TRTは選択肢の一つであるが、日本では使用出来る男性ホルモン製剤が少なく、種々の製剤が利用できる環境が待たれる。

次に60〜70歳以降の男性の元気について考えてみたい。40〜50代を男性更年期と呼ぶことについては、異論はないと思われる。ただ男性の場合、FTのレベルには個人差があり、60代でも若い男性と同じレベル(約20pg/ml)を維持している人もあれば、LOH症候群と診断される8.5以下の低値を示す人もいる。しかし平均的な日本人のFT値は、20〜30代をピークに徐々に減少し、50歳以降はその傾斜は急峻になることが知られている。

40〜50代の男性更年期におけるFTの低値には、ストレスが大きく関与しており、脳下垂体から分泌されるLH、FSHなどの性腺刺激ホルモンは低値を示す。一方、60代以降の男性では、ストレスよりは加齢に伴う精巣機能低下がFT低下に関係することが多くなる印象である。この場合、FSH、LHなどの性腺刺激ホルモンは、基準値よりも高値を示すことになる。「LOH症候群診療の手引き」が出版され、40〜50代の男性更年期に対するTRTについては認知されてきたが、60代以降の男性に対するTRTは必ずしも一致した見解は得られていないように思う。

最近、札幌医科大学の熊本悦明名誉教授は「熟年期障害〜男が更年期の後に襲われる問題〜」7)という本を上梓された。その中で、FT低下により元気をなくした60〜70代の男性に対してTRTを考えるべきである、という提言をなされている。私もこの提言に賛同する。

75歳から高齢者とし、それまでは現役世代として働いてもらうという少子高齢化社会における70代の役割は、日本社会において大きいと思われる。その年代の人々に活力、元気を与え、労働力として頑張ってもらうためには、もちろん身体的なサポートも必要ではあるが、メンタル面でのサポートも重要である。FTの低値によって元気がなくなっている高齢者に対してTRTを積極的に考えてもよいように思う。

先にも述べたが、日本ではTRTの製剤としては、エナルモンデポーが一番安価である。エナルモンデポーを注射することで、精巣からの自前のテストステロン分泌は抑制されるが、高齢になって分泌量がもともと少ないのであれば、外部からテストステロンを補充し、元気をもらうという考え方もあるかと思われる。

DHEA補充療法

DHEAは早くから長寿に関係するホルモンとして注目されてきた。例えばボルチモア長期縦断研究では、DHEA-Sが高値の人たちは長寿であることが示されている10)。また、福岡県田主丸住民検診の27年間の追跡研究でもDHEA-Sは男性の長寿の予測因子と報告されている11)

DHEA-S は成長ホルモンと同様に加齢と共に低下する。副腎で作られるDHEAからテストステロンやエストロゲンが作られる。また、DHEA(-S)そのものも弱いアンドロゲンの作用をもち、免疫賦活作用、抗骨粗鬆症作用、抗肥満作用、中枢神経系への作用、抗腫瘍作用、抗動脈硬化作用、抗糖尿病作用、などが報告されている。この他に、健康感の増進、皮膚の改善(皮脂増加、表皮萎縮改善、水分保持増加、色素沈着改善)、性機能の改善なども報告されている。

本邦においてヒトに対するDHEA補充療法についての報告は少ない。秋下は、軽度の認知機能障害のある女性にDHEA25 mg/日を処方し,6カ月間経過をみたところ,単語記憶, 遅延再生などの認知機能が改善された、と報告している12)

福岡大学の柳瀬教授は、DHEA補充療法について次のような私見を述べられている13)

  1. 服用効果には、当然のことながら、個人差が存在する。
  2. DHEAの低下が著しく、健康感、QOLの低下している方が服用すれば、改善を実感できる可能性が高い。
  3. インスリン抵抗性を基盤とする耐糖能異常や軽度の糖尿病には、有効に作用する可能性がある。肥満改善効果や抗骨粗鬆症効果はあっても軽度にとどまる。印象としてこれらの生活習慣病に改善効果を期待するのであれば、生理量の25mgではなく、薬理作用を期待する程度の補充量(50mg以上)は必要かもしれない。
  4. ホルモン依存性癌(乳癌、前立腺癌)を保有している方では禁忌とすべきである。

当院でも、DHEA-S低値の患者に健康感増進を目的に、DHEA補充療法を行なっている。その中の10人(男4人、女6人)は3年以上、DHEA補充療法(25mg/日服用)を行っており、長い人は約10年続けている。印象として、DHEA補充を行っている人は、同年齢の人に比べて元気であるということである。特に女性ではその印象が強い。図2に当院における女性に対するDHEA補充療法前後のTT値を示したが、補充後に有意にTT値は増加した。男性では有意の変化は認めなかった。DHEA補充療法による女性の元気にはTTの増加が関係しているのかも知れない。例数を増やして今後さらに検討したい。

図2.DHEA補充療法前後の総テストステロン値(女性6名)

図2DHEA補充療法前後の総テストステロン値

DHEA 25mg/日の補充療法により、TT値は前の0.168±0.084から後の0.272±0.126ng/mLへと有意に増加した(p=0.015)。補充後のTT値は服用3〜9年(平均5.9年)の値である。

米国では、DHEAはスーパーなどでもサプリとして売られている。しかし日本では、医薬品として取り扱わなければならず、当院では米国から個人輸入して患者に提供している。当院における価格は、DHEA25mgが90日分で約23,000円である。TRTやHRTに抵抗がある患者でも、DHEAの服用についての抵抗は少ない。

プラセンタ注射

2012年、韓国から高齢者に対するプラセンタ注射の効果が報告された14)。65歳以上の男女の高齢者に対して、プラセンタ(日本での商品名はラエンネック)を8週間投与した。最初の2週間は週に4アンプル、次の2週間は2アンプル、最後の4週間は1アンプルであった。結果はプラセボ群に比べ、プラセンタ投与群で身体能力やうつ状態が明らかに改善した、としている。

当院でもこの論文に着目し、元気のない高齢者に対して、その効果をみてみた。インフォームド・コンセントにもとづき説明の上で同意を得た15名(男3名、女12名、51〜85歳、平均71歳)に対してプラセンタの皮下注射を行なった。方法は1回4アンプル(ラエンネック2アンプル、メルスモン2アンプル)を両上腕に、片方にラエンネック2アンプル、他方にメルスモン2アンプルを皮下注射し、週1回の頻度で、12週間続けた。副作用は注射部位のしこりや皮下出血以外はなかった。表3に結果を示すが、主訴は、耳鳴り、疲れ、膝痛、腰痛、元気がない、イライラ、痺れ、食欲なし、などと多彩であったが、肌が良くなった、元気が出てきた、痛みも軽減し仕事ができるようになった、食欲が出てきた、など全員でなんらかの改善を認めた。

表3.プラセンタ皮下注射の効果
年齢性別効果
67歳耳鳴り → 改善した
67歳疲れ → 元気になった
81歳膝痛 → 痛みも軽減、肌がよくなった
51歳神経痛、イライラ → 痛みよくなった、イライラも消えてきた
79歳腰痛 → 痛みが取れて畑で仕事ができるようになった
82歳顔面しびれ → 徐々によくなってきている
53歳腰痛 → よくなってきている
84歳元気なし → 喋れるようになった、食欲アップ
77歳しびれ、蟻走感 → 肌がよくなった、しびれは軽快
85歳食欲なし、背部痛 → 食欲アップ、痛みは同じ
72歳下肢痛、イライラ、抜毛、物忘れ → 明るくなった、下肢痛が取れた
69歳元気がない → 疲れにくい、元気が出てきた
54歳疲れやすい → 体カアップ、疲れにくい
70歳肩凝り、肌不調 → 体調よい、肩凝りはよくなった、肌よくなった
75歳元気なし → 元気アップ、肌よくなった

◎:著効、○:有効

美容を中心に使用されてきたプラセンタであったが、TRT、HRT、DHEA補充療法などの代替療法として、高齢者のQOL改善にも使えるのではないかとの印象を持っている。今後、症例を増やして検討したい。

プラセンタの皮下注射は自費診療で行なった。4アンプルで3,000円である。12回で36,000円の価格になるが、12回終わった後も月に1〜2回続けてる人が多い。

「元気」とは何か

本項では「元気」という言葉を頻回に使用した。英語でいえば well-being であろうか。「元気」は一面で「やる気」という言葉に通じる。

順天堂大学(東京大学名誉教授)の川戸佳教授15)。は、「やる気」は、老化により低下する活力で、この「やる気」には、海馬を含む大脳辺縁系が関係しており、報酬系のドーパミン神経が関与している可能性が高い。ドーパミン神経には、男性ホルモン受容体や女性ホルモン受容体が沢山発現しており、テストステロンあるいはエストロゲンが増えるとドーパミン放出が増えて「やる気」が出る、また、その反対もしかり、と述べている。

さらに、海馬中には、精巣や卵巣と同じように、コレステロールからプレグネノロン、プロゲステロン、DHEA、テストステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)、あるいは、エストロゲンなどが合成される経路があり、海馬でのそれぞれのホルモン濃度は、血中のテストステロンやエストロゲンの濃度よりも高い。しかし、加齢により、海馬内のテストステロンやエストロゲンも大きく減少し、海馬の記憶力の低下に関係してくる。HRTが更年期過ぎの女性の記憶・認知などに効果があり、そのメカニズムは、記憶中枢の海馬内でEによって神経シナプスが増えることにより記憶が改善し、同時にテストステロンやDHTも海馬の神経シナプスを増やすことで記憶の改善に作用している、と報告している。

以上のように、「元気」が「やる気」であるなら、ドーパミン神経が関係し、これを左右しているのがテストステロンやエストロゲンということになる。さらに、記憶力にもテストステロンやエストロゲンが大きく関係している。高齢者の「元気」にはHRT、TRT、DHEA補充がキーになる治療法と著者には思えるのである。

終わりに

日本における超高齢化社会の到来は、待ったなしの現実である。その中で、75歳まで元気で働いて社会を支える。あるいは、80〜90歳まで社会参加をする、税金を納めて社会に貢献する。そのような社会になれば、日本にも新たな展望が開ける。そのためには、老いに対する備えを50〜60代から行い、70〜80代になっても元気を提供できるアンチエイジング医療が役立つと考えている。


文献

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  6. 森本紀彦. 女性の更年期治療におけるテストステロンの有効性について.更年期と加齢のヘルスケア.2005 ; 4 : 68-72.
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